社会人の方それもまだまだ若い人たちと喋るとき、こちらが高校の化学の教師とわかると、よく口にされるのが「化学基礎は苦手でした。特にモルのところがわからなくて・・・」ということです。
あの「モル」のことを教えているのだから、とてもすごい人なんじゃないか?という感じで話が盛り上がったりもします。多くの人がこの「モル」という言葉に悩まされた記憶を持っているようです。
このように、多くの人の心にしこりを残す「モル」とは、一体どのようなものなのでしょうか、また、それほど厄介なものなのでしょうか。原子の構造や質量数を復習しながら「モル」をわかりやすく解説して見ましょう。
物質量って何?
高校の化学基礎を週に3時間の授業でやっていくと、夏休み前に、聞き慣れない言葉が出てきます。分解すれば「物質」と「量」という二つの言葉からなる語句なのですが、これ何?と言わざるをえない、「物質量」という語句です。
いきなり聞くと言葉ヅラは頭に入るのですが、読めばわかる文字だけが頭に入ってきて、意味がついてきません。多くの人々を戸惑わす原因はこのネーミングにあると思っています。ここで取り上げている「モル」と言うのが、この物質量というものの単位なのです。とりあえず、物質量という新しい言葉が出てきたと体をかわしておきましょう。
物質を具体的に量的に扱うとき、私たちはいろいろな量を用いますが、原子や分子を取り扱うとき、それがあまりにも小さいので、実際に手にとって扱うためには10を20回以上掛けたくらいの大きな個数を考えなければなりません。これも、「モル」という言葉に馴染めない原因かもしれません。
原子の構造と質量数・原子量
「原子の構造」のおさらいをします。原子は原子核と呼ばれる原子の質量を支える部分と、その周りに存在する電子からなると教わりましたね。原子核はプラスの電気を帯びた陽子と電気的に中性の中性子とからなり、陽子と中性子の質量はほぼ等しく、陽子と中性子の数を合わせたものを質量数と呼ぶのでしたね。
原子1個の質量を考えるとき、電子の質量は小さいので考えに入れないで、この質量数を基準にすることになっていました。原子番号6、質量数12のC(炭素)原子を例にあげます。
- 陽子数 6 (陽子数=原子番号)
- 中性子数 6
- 質量数 12
ここに登場した質量数というのは、陽子6個と中性子6個の合計の数字で、明らかに、とても小さい陽子と中性子の個数に過ぎません。とても小さい陽子と中性子の実際の重さを使った場合、その取扱いは誰が考えても不便なもの、煩わしいものと言えます。
そこで考えだしたのが、この質量数の12をこの炭素原子の相対質量(仮に決めた質量)として、これを原子番号6、質量数12のC原子の『原子量』とすることでした。
今でこそ、Cの原子量を12として、他の原子の相対質量を決めていくと決められていますが、長い歴史の中ではH原子や、O原子も基準にする原子の候補になりました。けれど、1961年の国際会議で、「質量数12のC原子の原子量を12とする」と決められて、現在に至っています。
原子量にg(グラム)をつけたら
質量数12のC原子の原子量が12と決まっても、まだまだ、実用にはなりません。私たちは物質の量を表すとき、質量や体積をよく使います。でも、化学反応は物質の粒子と粒子の組み合わせが変化するので、粒子の個数で考えると便利なことに気が付きます。
質量数12のC原子の原子量を12として他の原子の相対質量を決めましたね。それにg(グラム)をつけます。
- 質量数12のC原子の原子量が12 →12g
- 質量数1のH原子の原子量が1 →1g
- 質量数16のO原子の原子量が16 →16g
g(グラム)単位をつけると、取扱いがぐっと身近になりますね。また、質量数12のC原子12g、質量数1のH原子1g、質量数16のO原子16gそれぞれの中には、原子1個の質量が極めて小さいために日常であまり使わないような大きな数の原子が含まれていることがわかります。この数をアボガドロ定数と呼び、6.0☓1023個の粒子の集団で、これが、1モルという単位が示す個数なのです。
ここがこの話の中心かと思いますので、念のために確認いたしましょう。原子1個の質量にアボガドロ定数をかけると、原子1モルの質量になります。言い換えると、6.0☓1023個の原子を集めると1モルの原子になるということです。
- C原子1個の質量(g)☓ 6.0☓1023個 = C原子1モルの質量12(g)・・式(1)
- H原子1個の質量(g)☓ 6.0☓1023個 = H原子1モルの質量1.0(g)・・式(2)
- O原子1個の質量(g)☓ 6.0☓1023個 = O原子1モルの質量16(g)・・式(3)
式(1)式(2)式(3)をご覧ください、両辺を原子1個の質量で割ってやると、当然のように、その個数はC原子でも、H原子でも、O原子でも同じ値、6.0☓1023個となります。
少しくどくなりましたが、C・H・O原子それぞれ1モルは、12g・1g・16gとなります。分子の場合も分子量は相対質量である原子量の和で表しますから、同じように扱えます。水(H2O)の分子量は原子量の合計で、(H)1 ☓2 +(O)16=(H2O)18となり、1モルの水は18gとなります。
問題をやってみましょう
1モルについてくどいようですが、まとめをして、それをもとに問題をやってみましょう。
1モル:原子量や分子量にg(グラム)をつけた量(6.0☓1023個の粒子のあつまり)
原子量を C=12 H=1.0 O=16として、次の問いに答えましょう。ただし、アボガドロ定数は6.0☓1023個とします。
- 炭素原子Cが6gある。これは、何モルの原子か。また、何個の原子のあつまりか。
- 水H2Oが180gある。これは何モルの分子か。また、何個の分子のあつまりか。
- 二酸化炭素CO2 が4.4gある。この中に含まれるC原子は何モルか。
答
- C 1モルは12gだから、6/12=0.5(モル)、6.0☓1023☓0.5=3.0☓1023(個)
- 1モルのH2Oは18gだから、180/18=10(モル)、6.0☓1023☓10=6.0☓1024(個)
- CO2 1モルは44gだから、4.4/44=0.1(モル)、CO2 1モル中に含まれるC原子は1モル だから、C原子は0.1モル
いかがでしょうか。10の23乗というとんでもない大きな数字が出てくる以外、問題はないといえませんか?
今回のまとめ
- モルは高校化学基礎の嫌われ者か
- 物質量という耳慣れない語句も問題か
- 質量数12のC原子の質量数を原子量の基準に採用
- 原子量にg(グラム)をつけたら1モルの原子
- 1モルは6.0☓1023個の粒子の集まり、ちょっと大きすぎるのが難
10の累乗の扱いになれないと、ちょっと敬遠してしまいそうな大きい数値です。なれない時は、23乗の20を取ってしまって、101=10 102=100 103=1000 などで、実感のわく数値で馴染むのも一つの方法かと思います。また、今回は触れませんでしたが、一般的に原子量という時は、多く存在する同位体(中性子数が異なり、質量数が違うもの)も含めて考えます。そのため、きちんと割り切れないものも出てくるので、要注意です。