もうすっかりデジタル写真の時代になってしまいましたが、と言っても、いま写真を始めたばかりの高校生には、デジタルが当たり前すぎてなんのことか分かりませんね。年配の方はお分かりでしょうが、少し前には、フィルム写真の時代がありましたし、オートフォーカスカメラの登場する前はすべて眼と手でピントを合わせていましたね。
同じ写真を撮るのに、楽に撮れる機材を使わずにそれもフィルムを使って、マニュアルフォーカスカメラで写真を撮る高校生たち。彼らは一体何にこだわっているのでしょうか?フィルムを使う高校写真部の活動(と言っても写真を撮ることに変わりはないのですが)の様子を覗いてみましょう。
フィルムカメラで写真を撮る
今から10年~20年前というと、デジタルカメラにとってはそれこそ日進月歩の激変時代でした。それに比べて、フィルムカメラはほぼ進化の頂点に達していて、かなりの性能の中古カメラが安く手に入ったものでした。
また、私の勤務していた学校の写真部では、写真部顧問の手持ちの複数のカメラがフィルムカメラであるという事情もあった上に「写真部はフィルムカメラを使っています」というちょっとした自負心のようなものもあり、一眼レフのマニュアルフォーカスカメラでフィルムを使っていました。こういう背景から、写真部のうたい文句は次のようなものでした。
- カメラはマニュアルフォーカス一眼レフカメラを使用する
- フィルムを使用する
- 作品発表は年に一度農業祭で行う(農業祭は、年に一度農産物の収穫時期に一般公開される学校行事で、農産物の販売や展示、色々なイベントや発表が行われる)
カメラがオートフォーカスじゃないため、生徒は慣れるまでが大変でした。24枚撮ってもピントの合ったものが一枚もないということもありました。
一眼レフへのこだわり
新一年生が入部するとアンケートを取ります。ある時一人の新入生がアンケートの問いに対して、素晴らしい答えを書きました。
- 問い: どんな写真が撮りたいですか?
- 答え: 自分が撮りたいと思っているものだけが写っている写真を撮りたい
ファインダーに見えたものがほぼそのまま写る一眼レフの特質を活かして、ぜひこの新入生には、自分の希望通りの写真をとってほしいものだと思ったものです。その後、この生徒は小さい人形の写真を、背景をぼかして撮れるようになりました。まるで、希望通りの写真でした。
写真部の生徒たちが使う機材はマニュアルフォーカス一眼レフカメラと50mmレンズです。マニュアルフォーカスの一眼レフカメラにこだわった理由は
- 自分でピントを合わせるという写真の原点を体験させたい
- ピントの合ってない部分(ボケ)の味わいを感じさせたい
ということでした。現在のカメラ(デジカメ・携帯のカメラ機能など)はピントがとても良く合いますが、自分でピントを合わせたりできることに魅力を感じてほしいと思いました。
デジタル機材も使って
高校の写真部で悩みといえば予算です。フィルムはまだ安く手に入りますが、プリントにはお金がかかります。そこで、出来るだけプリントをしない工夫をしました。
- フィルム現像の際にフォトCDを注文する(フォトCDはパソコンで見ることができる)
- フィルム現像時に同時プリントはしない
- ミーティングでの写真選びはプロジェクターで大型スクリーンに投影して行う
こんな風にデジタル機器も使用して、フィルムカメラの写真部の活動は行われます。最近は、公立高校でも普通教室へのプロジェクターやそこから投影するスクリーンの設置が進みパソコンさえ持って行けばどこでもすぐに写真を大きくして見ることができるようになりました。
「写真+題」で一つの作品
月に一度のミーティングで、お互いの写真を見る機会を作ります。部員は、常に10人位いますので、年間を通じて一人あたり10枚程度の作品を選び出します。選んだ作品にふさわしい題をつけて完成です。
生徒には、常々「写真+題」で初めて作品だからね、と言ってあります。でも、生徒にとっては写真を撮る以上にその写真にふさわしい題を考えつくことが苦しい作業のようです。
夏休み明けのミーティングで花火大会の写真(夜景なので少しピントが甘い)を何枚も選んできた生徒がいました。普段から写真数の少ないその生徒が花火にチャレンジしたことを高く評価して、ピントの甘さを題のネーミングでカバーさせようとしたのですが、つけてきた題は、「花火」とか「花火大会」という何とも言いようのないものばかりでした。
何回かのやり取りの末に3枚の写真に「花火トンネル」「二重菊」「真っ赤なサーカスリング」という題が見事につきました。写真にマッチした題がつくと写真がぐっと引き立ちます。11月の農業祭が近づくとこの作業は追い込みに入ります。
デジタル&オートフォーカスカメラへ
最近、マニュアル一眼レフカメラも故障すると修理できない機種が増えてきました。オートフォーカスカメラも一度使うとその便利さにマニュアルには戻りにくいものです。いろいろな状況からみても、マニュアル一眼レフを主に使って写真部を続ける時代ではなくなってきています。
このような背景に押されて、15年間続けたこのマニュアル一眼レフ写真部に、デジカメの導入を認めました。デジカメの普及率はかなり高いもので、何人もの生徒がコンパクトデジカメで撮った写真を持ってくるようになりました。
写真が撮りやすくなったようで、生徒の撮る写真の数がぐっと増えると同時に、ピントの精度もぐっとよくなりました。でも、マニュアルフォーカス一眼レフで鍛えた写真術はきっと目に見えない所で生きていると思います。
今回のまとめ
- 高校の写真部でフィルムカメラを使うところがある
- 一眼レフの特徴にこだわった
- ファインダーに見えたものがほぼそのまま写る
- 美しいボケ味
- 写真の鑑賞はプロジェクターでスクリーンに投影して
- 写真と題がそろって初めて作品になる
- デジカメへの発展、でもマニュアルカメラで学んだことは忘れない
カメラが電話についたか、電話がカメラについたかわからないような時代になりましたが、最近の一眼レフカメラ(もちろんデジタル)にはWiFi機能がつき、手近なスマホに写真を送れるそうです。もう、後戻りはできませんね。