日本の食料自給率が諸外国に比べて低いことがよく問題にされますが、電車に乗って少し郊外に出ると季節によっては青々とした水田が広がっている景色があったりして、結構農業は盛んにやられているという印象を受けます。
全国的に見ても農業科を持つ高校がない都道府県はありませんし、農業は地域の産業として存続してきたものと言えますので、農業科の学習内容はひと目見てそれとわかるものもあります。
- 青森県立弘前実業高等学校藤崎校舎 りんご科:説明の必要なしですね
- 奈良県立吉野高等学校 森林科学科:吉野杉ですね
これらは、園芸と呼ばれる植物生産系のことを中心に学ぶ科ですが、広く高校の農業科の学習内容全般を見てみましょう。
園芸と畜産そして、食品加工も
農業の持つ本来性から考えると、どうしても食糧生産が第一になります。そうすると、当然、日本であれば米作や野菜類の生産、酪農や養豚など食糧生産を中心において考えがちです。
でも、生産した食物を加工して、保存性を高めたり、味わいを良くして付加価値をつけたりということも大切なことです。
多くの農業科の高校には園芸と畜産と食品加工に関連する科が置かれています。私が勤務していた学校も呼び名は違いますが、園芸と畜産と食品加工の3つの科がありました。
この3つの科は園芸では田植えをし、畜産ではウシの世話をし、食品加工ではイチゴジャムを作ったりと学習内容がはっきりと異なると同時に、そこに学ぶ生徒たちの人柄や個性もそれに応じるようにはっきりと違いが見えたものです。土と動物と食品をそれぞれ相手にするのですから、それを希望する生徒たちのキャラの違いも当然かもしれません。
実習と座学
生徒の学習科目には普通科の科目と専門科目がありまして、普通科の授業は基本的に一般の普通科高校と同様に、ホームルーム教室で受けます。専門科目の方もいきなり実習というわけに行きませんので、まず教室で授業を受けます。この教室で受ける実習前のまたは実習後の授業を専門科の方では実習と区別して「座学」と呼んでいました。
この、ちょっと古くさい言い方を高校1年生が真面目な顔で言うと面白いのですが、次の時間は座学というと、「実習じゃなく、教室で授業します」という指示の意味にもなっているので、生徒たちは実習服がいるか要らないかもこれを聞いて判断しています。
1・2年の実習は時間割通りの実習になりますが、普通科に比べて、その比率はかなり大きいものです。3年になると卒業研究と実習が重なりますから、結局、毎日実習室に入り浸りということになります。
農業クラブという授業
一般に高校には、野球部とか放送部とか言うクラブ活動がありますが、農業高校にはクラブ活動とは別に、農業クラブという全員所属する、授業と同等の扱いのクラブがあります。
農業クラブにはひと目で内容の分かる、「ブタ部」「ウシ部」「製菓部」のようなものや、説明のいる次のようなものもあります。内容を簡単に説明します。地域や学校によって内容は様々です。
- 総合環境部:アイガモ農法で無農薬稲作を実践し、収穫時にアイガモも屠殺する
- ふれあい動物部:愛玩動物を飼育し、施設訪問を通じてアニマルセラピーを実践する
- 応用微生物部:微生物の働きを利用して発酵食品の味噌やヨーグルトを生産する
農業クラブの所属は1年生の夏休み中に決まり、特に大変なミスマッチなどがなければ3年間継続して、そのクラブで卒業研究もします。
また、農業クラブには全国大会があり、都道府県予選を通過すれば全国大会の舞台で成果発表もできる、農業高校生の活動の中心なのです。農業クラブの発表にはグループ研究の成果を競う「プロジェクト発表の部」と個人として農業への思いを語る「意見発表の部」があり、「プロジェクト発表の部」では、パワーポイントなどを上手に使って、高度な内容の研究発表を聞かせてくれます。
生き物の命をいただく
秋の深まった水曜日に「収穫感謝祭」という行事が行われます。これはこの行事の準備に当たる食品加工科の2年生の実習時間の都合でそう決まったのですが、畜産科で肥育した豚の肉と園芸科で栽培した野菜と米を材料にして、食品加工科の生徒が炊き込みご飯と豚汁を作るのです。
これを、全校生徒がホームルーム教室で小学校の給食のようにして、お昼ご飯にいただくのです。ただそれだけのことですが、食事の前に必ず、学校長のメッセージが流れます。その内容はいつも共通しています。
- 動物・植物を問わずすべての命は尊い
- 我々は生きるためにその尊い命を奪っている
- いただく時には、感謝の念を持ちましょう
農業高校では、このように、命の尊さをしっかり学びます。
今回のまとめ
- 全国の都道府県全てに農業科を持つ高校がある
- 農業科は園芸・畜産・食品加工が中心
- 学習内容は様々だが、いずれにしても実習の時間がとても多い
- 農業クラブという授業があり、これが農業高校の中心をなす
- 動植物の生命をいただくのが農業、常に感謝の気持ちで
教員免許は基本的に「農業」の一種類だけです。転勤した場合それまで専門にやってきたことを、そのまま続けられるとは限りません。園芸を専門にしていた先生が転勤してウシの担当を命じられた例がありました。ウシが怖くて仕方なかったのですが、努力して克服されました。