一昔前、高校の修学旅行で冬のスキーがもてはやされたことがありました。スキー場に向かう道路のパーキングエリアで他の高校と接触して問題が生じないかという心配をするほど流行ったものでした。
それから時代が移り、各地の学校の教育目標に「国際交流」という言葉が登場するようになり、また修学旅行予算の上限も見直されたりした結果、海外修学旅行が増えてきました。
海外と一口に言っても、色んな国が考えられます。しかし、特別な関わりがなければ、予算や飛行時間などから近い外国である韓国や台湾が選ばれることは当然のことでしょう。
大部分の高校生にとって初めての海外旅行です。良いところや、逆に困難なことはないか見てみましょう。
パスポートの色と国籍
学校の教育方針の柱の一本に国際交流が入って、修学旅行は海外に行く方針ができ私の所属する学年は韓国に行くことになりました。海外修学旅行の企画の中では相手国の学校との交流が必須となっています。宿泊地を一箇所で三連泊と決め、宿泊地に近い仁川(インチョン)の女子高校に交流会をお願いし、準備をはじめました。
一番大きい問題は、パスポートの取得に関することで、300余名の生徒の中に日本以外の国籍の生徒が何人かいました。パスポートを取得すること自体に特別の問題はないのですが、外国人と日本人とでは出・入国の手続きの際に通過ゲートが異なり日本人でないことがわかってしまいます。また、パスポートの色でも日本人かそうでないかわかってしまいます。
デリケートな問題なので、外国籍の生徒の人権問題として、担当者を決めて対応しました。
- 国籍が日本でないことが明らかになってもいいか?
- Yesの場合:特に問題なし
- No の場合:本人の思いを聞いてできることを検討
このような内容で生徒たちと個別の面談するのですが、一人の男子生徒はこの問題に関して大変ナーバスで、私に呼び出されて個人的に話すことについても不安を訴えるほどでした。修学旅行で外国に行くということから、一つの大きな人権問題が浮き上がってきたのでした。
本名を名乗らない(名乗れない)背景
他の学年には本名を名乗っている生徒もいましたが、我々の学年の外国籍の生徒たちは、いわゆる日本式の通称名を使用していました。保護者の方たちは私とほぼ同世代で、私の記憶でもおそらく外国人(特に韓国朝鮮人)差別を受けた世代だと考えられます。そう簡単に本名を子どもに使わせる気にはなれなかったでしょう。時間をかけてこの生徒たちと話をしました。
就職や結婚をする際には本名を名乗る必要が生じることを始めとし、何処かで自分の国籍を明らかにすることが大人になるにあたって避けられないことであることを説明しました。
その結果、外国籍でもあるけど、それに加えて複雑な事情を持った生徒1名が不参加となった他はパスポート取得の方向に話は進みました。
色々なドラマも生まれました
本名を名乗らずに(名乗れずに)いた外国籍の生徒たちの事情や背景・思いも様々で、国籍が明らかになるに伴って色々なドラマも生まれました。あるクラスの男子生徒は、修学旅行で韓国に行くことを嫌って、感情的な発言を何度もしていたのですが、同じクラスの身近な女生徒が韓国籍だったのを知り、自分の発言を恥じて女生徒に謝罪しました。
また、通称名を名乗っていた一人の韓国籍女生徒は、小学校の時に自分が韓国籍であることを知り、それを誰にも言えずに長い間葛藤してきました。修学旅行を機会にこの女生徒は決心して自分の所属する運動クラブの仲間に韓国籍であることを告げたのでした。
それに対する仲間たちの返事「あなたが何国人でも友情に関係はないよ」で勇気づけられた彼女は、修学旅行中にクラス担当の女性のガイドさんにも自分が韓国籍であることを告げたのでした。ガイドさんは「あなたが私と同じ韓国人であることが嬉しい」と抱きしめてくれたそうです。
この女生徒にとって修学旅行はとてもいい飛躍のチャンスになったといえます。他の生徒にとってはどうだったのでしょうか。
インチョンの女子高校との交流会では体育館で両校の生徒が横に並んで1対1の交流をしたのですが、何を喋っているのかと思うほどの盛り上がりでした。この様子一つを見ても、草の根レベルの国際交流は成功したと感じられ、また、心配した言葉の不自由さもあまり関係ないというのが実感でした。
今回のまとめ
- 高校の修学旅行も時代とともに変化する
- 国際交流の観点から海外修学旅行も増えてきた
- 近くということで韓国や台湾が行き先としては多い
- パスポート取得で悩ましい事もある
- 海外という非日常の設定で予想外のことが起こる可能性あり
殆どの生徒が初めての海外旅行になります。行ってみて初めてわかることも多くあり、若いときの経験としてぜひとも多くの生徒には体験して欲しいと思います。