テンポよく、生徒が集中し、教師と生徒の間のキャッチボールができている授業をするためには、生徒一人ひとりが個々の人格を尊重されている事が必要。そのためには、授業の準備も大切だけれど生徒一人ひとりの名前を覚えることが重要だといえます。生徒にしても誰にしても名前で呼ばれること(指名されること)で自分の存在を強く認識します。
生徒の名前をしっかり呼ぶことによって人間関係は深まります。そうすることによって授業中に当てたり、注意したりすることがスムーズになります。名前を呼ばずに「そこの生徒静かにしなさい」と言っても、言われた側は他人事にしか聞こえないのです。名前を呼ばれて初めて「自己」を認識できます。通学区域の広がる高校では名前を覚えるついでに出身中学校を覚えておくことも意味があります。
いかにして生徒に聞かせるか
いい授業というものは、テンポよく進行し、生徒が程よく集中し、教師と生徒間の問いと答えのキャッチボールがきちんとできているものだと考えます。でも、多くの場合そう上手くはいかずいかに授業の話を聞かすかということが問題となってきます。どんな簡単な話でも聞かなければわかりません。
生徒が教師の話を聞かない理由を考えてみましょう。高校生ともなればもう大人と同じです。40人の群れの中の一人として埋もれているとき教師の話をたとえ聞かなくてもそれ故に自分ひとりだけが叱られるということはないのです。教室全体がざわついていて教師が「静かにしなさい」と大声で叫んだとしても、全体に対する大声ですから少しはビクッとするものの自分のことと深刻に考えなくてすむわけです。
道路を車で走っていて前後左右何処かにパトカーが見えたらちょっと気になりますが、大部分の人は何も違反をしているわけではないということで平気で運転を続けます。ところが道の前方に赤色灯が点滅していて交通検問だとわかった時、人によっては昨夜の深酒を思い出して「大丈夫かな?」と気になったりします。これは明らかに交通検問が取締り側と運転者が一対一対応するからにほかなりません。
名前を呼ぶことは人格を認めること
教室でも生徒一人ひとりを指名して問題の答えを求めたり、注意することで教師と生徒との一対一対応が生まれます。名前を呼ばれることで生徒の中には緊張が生まれます。
この時教卓にある座席表を見ながら不安げな調子で「何々さん」などと呼んではいけません。きちんと顔と名前を一致させて自信を持って名前を呼びます。名前をしっかり呼ぶことによって生徒の中には自分の人格が認められたという認識が生じます。また、この先生からは逃げられないという思いも無意識の中に生じます。こんな風にして人間関係を作っていくことによって生徒が話を聞いてくれる下地ができていきます。
この先生すごいと思わせたい
さらに、生徒にこっちをむいてもらうためには、色々やり方はあると思われますが、この先生はすごいと思わせることができたらそれはとても力強い助けになります。例えば、どっちみち生徒の名前を覚えるのなら授業に行く教室の生徒全員の名字を覚えて行ったらいかがでしょうか。
私が高校生の時、出席簿を見ずに最初の授業時に出席を取った先生がいらっしゃいました。教室の中の生徒の顔を見ながら全員の名前を読み上げるのですからなかなか迫力があります。当然我々生徒は「この先生すごいと」感じたものでした。
私の場合は、最初の授業で自己紹介プリントを書いてもらって、その中にある3点ほどをひとまとめにして覚えたものです。例えば、「何々くん・出身中学校名・飼い犬の名前ゴン」という感じで生活環境も少し入れて覚えます。これは、問題演習などの時間にその生徒と関わったときに「ゴン元気?」とかひとこと投げかけるのですが、言われた生徒は決して悪い気はしません。
出身中学名も重要
高校では通学区域が広くなります。出身中学がわかっているとクラスを超えた友人関係の把握にもつながります。何か問題が生じたとき今まで見えなかった生徒間の人間関係が浮き上がってきたりして問題を解決しやすくしたりします。特に学級担任にとっては授業とは関係なくても頭に入ってなければならない情報の一つといえます。
人間関係ができてきたらコミュニケーションも円滑になって行きます。そのためにもまず生徒の名前をしっかり覚えて生徒一人ひとりを人間として人格を認めて接することが重要だといえます。もちろん、授業の本題である教科・科目の内容を練ることが最重要なことであることに変わりはないのですが。
今回のまとめ
- いい授業ができる前に、いかにして聞かせるかに誰もが苦労
- 指名すると生徒は「自己」を認識する
- 教師は自信を持って名前を呼べるように生徒の顔と名前をしっかりと覚える
- 人間関係が深まると授業がしやすくなる
高校の授業は内容が深まりどうしても教材研究という教科の中身の準備にエネルギーを注ぎがちになります。生徒の名前を覚えても教科指導の中身の蓄積にはなりませんが、急がばまわれと申しますように授業のテンポがぐっと良くなるはずです。